世界フィギュアスケート史上、最高最強のフィギュアスケーターとも目される羽生結弦。
その羽生結弦が実はギフテッドである、それも、おそらくは、高いレベルのギフテッドであろう、という、わたしの限りなく確信にも近い推測については、前回の記事、『ソチから平昌オリンピックへ☆五輪王者、羽生結弦選手の魅力の在りか』で論じた通り。
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ソチから平昌オリンピックへ☆五輪王者、羽生結弦選手の魅力の在りか
「アスリートにしては、珍しいレベルの頭の良さだな」 それが、フィギュアスケーター、羽生結弦に対する、わたしの一番最初の印象でした。 と同時に、ある種の興味を掻き立てられた ...
今回は、羽生結弦ケーススタディーと題して、彼が幼少期から抱える「喘息」について、ギフテッドの見地から語ってみたいと思います。
ギフテッドとは、一言で言うならば、生まれつき、高機能な脳の特質を備えている人間のことを指します。
元々、脳内に十分な数と高密度の神経連路のシステムを持っているせいか、脳が様々な情報を処理していく方法やスピード、また記憶を保存していく量が常人のものとは、大きく異なっています。
ギフテッドについては、その高いIQだけに殊更に注意を向けられがちですが、それはあくまでギフテッドの特性の一面でしかありません。
ギフテッドとは、その脳の特質ゆえに、感覚、視点、思考、言動、学習能力、そして、性格に至るまで、大方の人間とは一線を画す存在と言えます。
そう、意外にも、ギフテッドの分野で著名な心理学者や研究者たちが、ギフテッドには、「喘息」や「アレルギー」などの免疫疾患を抱える人間の率が高いということを、はっきりと記述しているのですよ。
成人年齢に至っても尚、喘息を患う羽生選手の場合、試合会場への移動の折、また空港などで、しばしば、こんな姿を目撃できます。
本人曰く、マスクをするのは、冷たい空気が持病の喘息に障るから、と。
「ギフテッドであること」と「喘息」には、何らかの相関性があるらしい.....?
一見、突飛にも思われる学説ですが、実は、それを支えてくれる確固たる理由が存在するんです。その辺り、興味深い資料と共に順を追って探っていきたいと思います!
目次
ギフテッドと喘息:あくまでアカデミックな観点から
羽生選手の喘息は、彼の競技人生にとって深刻なハンディーキャップであり、常に相応の対応を求められる、ということは十分理解しているつもりです。それが、どれほど、本人にとって苦しく、厄介なことなのかも。
事実、わたし自身も3歳で小児喘息を患っています。
10歳になる前には症状が消えてくれましたが、思春期の頃、再発させました。当時は、吸入薬を手放せず、ひゅーひゅーという音を身近で感じていたものです。
大人になった今は、喘息の症状に悩まされることは一切ないため、幸いにも、わたしの場合には軽症で済んでくれたのでしょう。
つまり、ここではっきりと述べておきたいことは、わたし自身、殊、喘息に関しては、全くの無知でも、無体験でもない、ということ。
ただの興味本位で、羽生選手の「喘息」を面白おかしく取り扱う意図はなく、あくまで、ギフテッドの見地から心理学的、且つ、学術的に両者の相関性について吟味していきたい気持ちでいる、ということです。
まずは、その点についてのご理解を頂ければ、と思います。
羽生結弦の喘息に関わる情報
羽生選手の喘息については、2014年のソチオリンピックでゴールドメダルを獲得した際にも、繰り返し、ニュースで触れられていましたが、2018年の平昌オリンピックでも、やはり幾度となく、羽生結弦を語る中でのキーワードになっているようですね。
要は、それほどまでに、羽生選手にとっては喘息の影響が大きい、ということ。
今までのニュース記事の中から、特に羽生選手が抱える喘息症状についてを垣間見させてくれているものを、いくつか取り上げてみたいと思います。
[羽生結弦は]2歳のころからぜんそくに悩まされてきた。今も飲み薬は朝晩2錠ずつ。吸入薬も手放せない。
ぜんそくの影響で肺を大きく開いて息を吸い込むことができないから、4分半、全力疾走するような運動量のフリーでは、後半必ず息苦しくなる。背中が丸まって頭が前に出てきてしまう。
《朝日新聞DIGITAL(2014年)》
吸入スプレーだけでなく、毎日、薬を服用していることが分かります。
羽生はぜんそく持ちで、薬の吸引器を手放せない。[ソチオリンピックでの]フリー演技後も「発作みたいなのがあった」と明かす。
長野五輪スピードスケート男子500メートル金メダルの清水宏保がぜんそくのハンディを乗り越えたことを知り、ときにはマスクをつけて滑ることで肺機能を強化してきた。
アレルギー体質に細心の注意を払うため、フィギュア勢でただひとり選手村に入らず、日本選手の支援拠点「マルチサポートハウス」で生活。日本選手団の橋本聖子団長が認めた特例だった。
《SANSPO.com(2014年)》
新しい環境では、予期せぬアレルゲンにも一際、気を遣わなければならない、という状況なのでしょう。
....実は、[羽生結弦は]他の子供に比べて、生まれつき大きなハンデを背負っていた。
「喘息」である。
喘息持ちだった羽生は、少し走ると急に咳き込んだり、夜も眠れないほど咳が続く日もあったという。
羽生がスケートと出会ったのは4歳の頃。スケート教室に通っていた姉の練習についていったのがきっかけだったが、目的は喘息を克服することにあった。
「お母さんは結弦の喘息を心配し、なんとか治してやりたいと考えていた。ホコリを吸い込む可能性の少ない屋内でのスケートは、結弦にピッタリのスポーツでした。(羽生家の友人談)」
《週刊現代(2015年)》
羽生選手がそもそもスケートを始めたのは、喘息克服のため。突き詰めていくならば、喘息の存在自体が彼のスケート人生の起点となった、とも言えます。
[羽生結弦が]飛行機の中で発作に襲われないためなのか、お母さんが一晩中、背中を優しくさすっていましたね。リクライニングにして脚を抱えるように横向きに寝ている羽生くんが、時折親指を噛むような苦しい表情を浮かべることもありました。
《スポーツ紙カメラマンの目撃談:Asa-Jo(2017年)》
息子の喘息発作を案じて、母親の羽生由美さんが常に細やかな心遣いを見せていることが見て取れますね。常に母親が試合会場に同行するのも、息子の不測の事態に備えてだとも言われています。
喘息の定義とメカニズム

吸入薬を使用して鎮める
医学的見解によれば、喘息とは、小児・大人共に、鼻から肺に至るまでの空気の通り道である気道に炎症があるがために起こります。
この気道の粘膜が刺激に弱く、常に炎症状態にが置かれていることが、喘息の直接的な原因なのだと。

喘息患者の気道には、普段から炎症が
《喘息発症の原因や引き金と考えられているもの》
- 花粉
- ハウスダスト
- カビ
- ダニ
- ペットの毛など
- 冷たい空気・気温の変化
- 気圧の変化
- 香水・化粧品の成分
- 食品
- 医薬品
- 喫煙
- 大気汚染
- 運動
- 過労・ストレス
- 風邪・インフルエンザ等の感染症
一概に喘息と言っても、アレルギー性か、非アレルギー性かによっても変わってくるため、引き金となる刺激には個人差があるとのこと。
結局のところ、これだという原因の特定が難しいという現実があるようです。
ギフテッドに見る喘息やアレルギーの傾向
ギフテッドの研究で高名な心理学者、Dr.ウェッブがその著作の中で、ギフテッドと喘息・アレルギーとの相関性について、こう語っています。
...ギフテッドの人間、中でも、特にギフテッドレベルが高かったり、創造性に優れたタイプは、他の人間と比較して、アレルギーや喘息などの免疫障害を抱えている傾向が高いと言えます。
幾人もの研究者が、アレルギーは標準の人間に比べ、ギフテッドの人間に、より多く見られると記しているのです。
《Dr.ウェッブ (2005年)、日本語訳 by 更紗》
Dr.ウェッブの研究では、自らが直接集めたデータ分析を元に議論展開をしているわけですが、ここで言及されている他の専門家の分析結果についても簡単にご紹介したいと思います。
*視覚・空間の認知能力に優れた人間や、音楽の才能を持った人間に、アレルギーや喘息などの免疫障害を抱えている傾向が非常に高いことが分かった。(ゲシュウィン&ガラバーダ、1987年)
*ギフテッドスクールに通う高IQの子供たちには、アレルギーや喘息を抱えている生徒の数が予想以上に多かった。(ヒルドレス、1996年)
*思春期を迎えた子供たちの中で、言語能力、または、数学能力に優れた高レベルのギフテッドたちは、高確率でアレルギーを持っていた。このギフテッド対象のグループの中では、60%以上の子どもたちが免疫問題を抱えていた。その数字は、他の一般の場合と比較して、2倍以上にも上る。(ベンボウ、1986年)
*一般では、アレルギーを抱える率が人口の20%に対し、IQが160以上の高レベルなギフテッドでは、44%だった。また、9.6%が喘息を患っていた。(ロジャーズ&シルバーマン、1997年、シルバーマン、2002年)
尚、ロジャース&シルバーマンの知能検査には、「スタンフォード・ビネーL-M」使用。即ち、ここで言うIQ160以上とは、非常に高いギフテッドレベルのExceptionally Gifted~Profoundly Giftedを意味します。
《日本語訳 by 更紗》
2018年1月発表の論文では
こうした研究結果から判断するに、少なくとも1980年代後半から、ギフテッドと喘息やアレルギーとの相関性が数字の上では示唆されていた、ということになります。
これら一連の結果を元に新たな研究がなされ、興味深い学術論文が、2018年1月に「インテリジェンス」という専門ジャーナルに発表されました。カーピンスキを初めとする複数の研究者による共著です。
高い知能を持つギフテッドの人間によく見られる「過度激動」の影響が、その人間を支配する様々な領域に及び、果ては身体的領域にまで達することで殊更に表れ易い症状というのが、感覚過敏であり、免疫・炎症応答の異常なのではないか?
今回の仮説検証に当たって、カーピンスキらが「高い知能を持つギフテッドの人間」対象に選んだのが、アメリカのメンサ会員です。55,000人ものメンサ会員の中から、公平、且つ厳格な条件の下、最終的には、3,715人分のサンプルを得ての検証となりました。
このメンサには入会条件があって、知能検査の結果が98パーセンタイル以上と謳っているんですね。これをギフテッドレベルで表すと、凡そ、Highly Gifted (HG)、Exceptionally Gifted (EG)、Profoundly Gifted (PG)のレベルになろうかと思います。
ギフテッドの中でも、特に高レベルのギフテッドたちで、ギフテッドとしての特徴が顕著になるグループでもあります。
対して、この検証で「一般」と呼ぶグループに当たるのが、アメリカ政府が発表した統計データ。つまり、実質、上記レベルのギフテッド(全人口の2%以下)をも含むアメリカ全人口を対象にした平均値を活用、ということになっています。
その分析結果を元に、わたし自身が、項目を「喘息」、「自己免疫疾患」、「食物アレルギー」、「環境アレルギー」に絞って、棒グラフにしてみたものが以下の資料です。
その際の比較フレーズは、敢えて、「全体平均」、「ギフテッド」を使用しています。

アメリカのメンサ会員を対象に分析
これを見る限り、1980年代後半から発表されている、ギフテッドと喘息やアレルギーとの相関性を示唆する数字の正当性を証明してくれていますね。
確かに、ギフテッドは、一般人口に比べて喘息やアレルギーを患っている率が「遥かに」高い。
もう一点、前述のDr.ウェッブの文献の中に見つけたのですけどね、こんな興味深い情報もありました。
喘息やアレルギーを抱えるギフテッドの場合、子供であれ、大人であれ、しばしば、医薬品に対しても非常に過剰な生理的反応や副作用を見せます。それが、例え、薬局で入手可能な、ただの市販薬であっても、です。
《Dr.ウェッブ (2005年)、日本語訳 by 更紗》
カーピンスキらの論旨は、ギフテッドの研究を進める人間にとっては、興味深い思考を促してくれるものであり、学問を深めていくためのきっかけを作ってくれるものだと言えるでしょう。
高い知能を持つギフテッドの人間によく見られる「過度激動」の影響が、その人間を支配する様々な領域に及び、果ては身体的領域にまで達することで殊更に表れ易い症状というのが、感覚過敏であり、免疫・炎症応答の異常なのではないか?
ただ、この推論には、その先があって、「気分障害」、「心配症」、「ADHD」、「自閉症スペクトラム・アスペルガー症候群」をも、「過度激動」の影響下に含めているんですね。
正直、それに関しては、わたし自身は非常に懐疑的な目を向けています。
と言うのも、殊、真性の「ADHD」や「自閉症スペクトラム・アスペルガー症候群」に関しては、何らかの素因による後天的なものではなく、あくまで先天的な脳の特性によるものだというのが、様々な文献を通して得た、わたし自身の強い見解だからです。
ただ、ギフテッドの特徴として、一見、ADHDや自閉症スペクトラム・アスペルガー症候群の特徴と見分けがつかず、実際に誤診にまで繋がる行動というものも多く存在します。
そうした特徴の根本的原因、もしくは、そうした特徴への影響力という意味合いでならば、わたしとしても、粗方の同意はできるかもしれません。
どちらにしても、現段階で、わたし自身が上記の学術論文の中で関心を持っている疾患や障害への影響とは、あくまで身体的領域に限られている、ということを付け加えておきたいと思います。
いやー、こうして見ていきますとね、ギフテッドには、元来、標準とはかけ離れたレベルの、いわゆる、痛みを伴うほどの「繊細さ」や「敏感さ」、はたまた、「過敏性」が備わっていることが分かります。
この「繊細さ」や「過敏性」の特質と直接、深く関わり合ってくるのが、「overexcitabilities/過度激動(略して、OE)」。ギフテッドの人間を語るのに、どんなに切り離したくとも、絶対に切り離すことが出来ないものです。
そして、何を隠そう、このOE概念こそが、ギフテッドの奥深く神秘的な内面世界を紐解き、一見、不可解にも思われる言動を理解させてくれるための鍵となります。
と、同時に、ギフテッドと免疫疾患とを関連付けてくれる「可能性」をも秘めている、と言えるかもしれません。
ギフテッドのOEとは?
ここで、ギフテッドに見られる「OE」について、もう少し掘り下げてみたいと思います。と言うのも、これが、全てを語る上での究極の鍵となりますから。

ギフテッドの脳は、常に忙しい
人間誰しも、内外からの刺激を受け、それに反応しての一連の思考と行動があるわけですが、ギフテッドの場合には、とかく、それが度を越している。
例えて言うならば、振り子が超高性能な上、振れ幅も大きい。
はたまた、超高精度な秤が1g単位どころか、苦もなく、0.001g単位から計量してしまう、そんな感じでしょうか。
ギフテッド研究の第一人者とも言うべき心理学者、Dr.シルバーマンがこう記しているんですよ。
ギフテッドの子供たちは、周りの子らとは、その思考が異なるだけでなく、感じ方すらも異なっているのです。
《Dr.シルバーマン(1993年)、日本語訳 by 更紗》
つまり、常人と同じ光景を見ても、同じ音を聞いても、ギフテッドの人間がそこで見ている世界、聞いている世界は、全く異なる、と。
その独自世界の中で体験する事象も、感覚も、感情も、思考も、記憶さえも、当然のことながら異なってくるわけで、ギフテッドがこれらの自己体験を通して、外に出して表現するもの、外に創り出す世界(観)は、しばしば、常人の予期せぬものとなります。
元々が非常に繊細な作りをしているギフテッドですからね、ありとあらゆるものが刺激になり得るわけですが、それら刺激への反応を5種類に大別して、ギフテッドの心理プロセスを理解するための基盤を築くことになったのが、ポーランドの心理学者、ドンブロフスキです。
現在、このOE概念はギフテッド分野の中で確立されていて、ギフテッドの不可解とも思われる言動に光を点す上で、非常に大きな役割を担ってくれているんですよ。
ちなみに、ドンブロフスキが打ち立てたOEカテゴリーとは、以下の五種類に及びます。
- 精神運動性OE:過度に行動的でエネルギッシュ。脳への刺激過多で、眠れなくなることもある。何事にも能動的で、ADHDに間違われやすい。
- 知覚性OE:五感に訴えるものに激しく反応する。音楽や絵画を深く体験する一方で、匂いや音にも敏感。洋服の内タグや靴下の縫い目すらも嫌がることがある。また、質感、食感ゆえに、特定の食べ物の好き嫌いがある。
- 想像性OE:想像の翼を持ち、ちょっとしたことに対しても、いわゆる、シェークスピアやホメロス劇場を展開する。傍からは、大げさで芝居がかっているようにも見える。夢想を楽しむ。夜見る夢の内容が、朝起きても記憶に鮮明に残っている。悪夢をも見やすい。
- 知性OE:知識を得ることが最重要となる。自分の関心ごとについて、延々と問い続け、答えを見つけようとする。大人に、分からないこと、知りたいことを質問し続けることも。度を越した集中力を持つ。自分の中で理論的思考を展開する。
- 感情性OE:ありとあらゆる激しい感情の発露がある。非常に繊細で傷つきやすく、心配性で怖がり。時に、癇癪をも引き起こす。
心理的OEの概念は拡張できるのか
ここで、「精神運動性」、「知覚性」、「想像性」、「知性」、「感情性」と五種類の領域にまたがる上記OEを、仮に「心理的OE」と総称してみたいと思います。
ならば、この「心理的OE」対して、同じギフテッドに元来備わった繊細さや過敏症に起因する「生理的OE」と呼ぶべきものが、理論上存在してもいいのではないか。
実際のところ、ギフテッド人口に喘息やアレルギー等、免疫疾患を抱えている率が非常に高い、という数字がすでに出ているのだから。
そんな発想の元、点と点を結ぶべく、今までの文献を参考に、わたしなりの解釈・理解とで「ギフテッドと喘息・アレルギーとの相関性」を推論立ててみたのが、じゃーん、こちら!

心理的OEの解釈を広げる
*図解の中で、色が入っているものについては、ドンブロフスキはじめ、ギフテッド分野の専門家によって、共通の認識となっている概念です。
*色が入っているものであっても、矢印の向きや順番については、わたし自身の考察が反映されています。
*白のままになっているカテゴリーの相関性については、未だ、推測の域を出ていません。
その上で話を進めていきますが、人間の心理状態が身体に及ぼす影響については、ギフテッドに限らず、一般によく知られた事実でもあります。
精神的ストレスが身体の免疫力を下げることで、深刻な病気を誘発させてしまうことも、同様に知られています。
そこまでは行かなくとも、誰しも日常生活の中で、度合いの大小はあれ、何かしらは経験しているはず。
例えば、人前に出ると、顔が赤くなる、声が震える、どもる、脈拍が速くなる、汗をかく。
はたまた、極度に緊張をすると、お腹が緩む、など。←羽生選手自身がいつぞやのトーク番組の中で語っていましたね。
ギフテッドの中でも、感情性OEが非常に強く出るタイプの場合、その感情そのものが己の身体を、ある程度、自由にコントロールできてしまうこともあります。
大抵は、不快・心配・恐怖などのネガティブな感情に引きずられて、避けたいイベントに合わせて発熱したり、吐き気を催したり。
頭痛や腹痛を訴えるケースに至っては、もはや、日常茶飯事とも言えるでしょう。
でも、結局のところ、生理的OEの存在、また、それを通してのギフテッドと免疫障害との関係については、こうして机上では論じられるものの、未だ、確固とした太線で繋がり切ってはいません。
ただ、ギフテッドの人間全てが免疫疾患を抱えているわけでもなく。
免疫疾患を抱えている人間が皆、ギフテッドなのだという図式も成り立ちません。
と同時に、ギフテッドの場合、気管支はじめ、一連の呼吸器系統が弱いことが、必ずしも、喘息やアレルギーを誘発させている原因なのではないのかもしれないよ、と。
つまり、その根本的な原因は身体の側にあるのではなく、ギフテッドであるがためのギフテッド脳に宿っているわけで。
その特殊な脳の性質に起因する繊細さ・過敏さが、ある意味、生理的OEのような仇になって、免疫疾患を引き起こすことになっているのかもしれないよ、と。
現段階で動かしようのない数字として確認できているのは、「ギフテッドの人間に、そういう傾向が見られる。実際に、そういうデータが上がっている」というところまで。
これが、学術的に断定できる、ぎりぎりの域であり、限界だと言えます。
2018年1月発表のカーピンスキらの論文をきっかけに、将来的には、更なる分析結果や追従論文が発表されることにもなるでしょうから、解明に至るまでに展開されていくだろう専門家らの熱き議論を、わたしとしては、大いに歓迎したいと思っています。
羽生結弦にとっての喘息とは
羽生結弦にとっての喘息とは、物心つく前には、すでに自身の中に存在していたものです。
それは、彼がギフテッドであることとは別に偶然だったのか、それとも、ギフテッドゆえの必然だったのかは、実際のところ、結論付ける術はありません。全てを知り得る神以外には。
でも、喘息の存在が羽生結弦のスケート人生を語る上で、核となったことだけは確かです。
そもそもが喘息を克服するために始めたというスケートですから。
そんな羽生選手のフィギュアスケーターとしての軌跡を辿るとき、彼が丁寧に紡ぎ続けてきた人生は、まさに、真珠貝が一粒の宝石を作り上げていく様にぴたりと重なってくれるかのようです。

大粒の真珠は困難の中にこそ、生み出される
「月の雫」とも、「人魚の涙」とも称され、素のままで完璧な美と輝きを放ってくれる真珠は、人類が最初に出会った宝石だとも言われています。
以来、その希少価値をもって、「権力」と「清らかさ」の象徴でもあった、と。
同時に、古の時代から、王や王に連なる者が纏う冠や宝飾品を柔和な光でもって彩ってきた存在でもあります。
だからこそ、その美をただ眺める側にいる人間は、どれほどの豊かな環境の中で大切に守られて、この稀なる宝石が生まれたのか。どれほどの凪の中で、ひたすら安らぎ、何の苦労もなく育まれたのか、と安易に考えてしまいがちです。
でも、現実は、決して、そうではない。
天然の真珠とは、貝の体内に偶然にとりこまれた小石や砂、小さな木片などの招かれざる異物によって傷を負うところから始まるのだと言います。
異物が入ると貝は刺激されます。そのとき、膜の表面が破れ、その膜のかけらと異物が膜の中に入り込むことがあります。
すると破れた膜が広がって、異物を包み込む袋、「真珠袋」ができます。
袋の内側では、貝ガラをつくるものがにじみ出て、異物のまわりに貝ガラと同じものを作ります。これが真珠となるのです。
《「ミキモト真珠島」サイトより》
貝にしてみれば、この異物は愉快な存在ではないでしょう。異物混入の違和感と不快感は極まりなく、挙句、自分の体に傷を負わせられてしまうわけですから。
でも、その葛藤の先には、淡く輝く、優しい光が待っていてくれる。それも、極めて希少価値が高いと評されるはずの光が。
2018年2月、遂に、平昌オリンピックのリンクに立った羽生結弦。
それは、自らのスケート人生の核ともなった喘息に留まらず、前年11月に負った右足の大怪我を押してのこと。そのとき、彼は、己との戦いの最中にありました。
空港に降り立ったときに見せた、どこか達観したかの眼差しを鋭い眼光へと変え、アスリートとしての高い理想と、絶対王者としての矜持だけを纏って氷上を舞う姿には、鬼気迫るものがあって。
瞬きすることすら億劫だと感じるほどに、見る者の心を鷲掴みし、あたかも胸を抉るような痛みを伴わせるまでに深い感動の余韻を残しながら、4分30秒を駆け抜けていきました。
己との最後の戦いを戦い抜き、その戦いに勝利した彼は、ただ柔和な笑みをたたえながら、松岡修造氏からのインタビューの中でこう語ってくれています。
「それこそ、逆境はチャンスですよ、僕ん中では。逆境があるから、色んなことを考えられるし。それによって、アドレナリンもぶわーって湧いてくるし。だから強くなれるし。だから、チャンスを掴める、と僕は思っています.....[今は]....達成感が満ち溢れています」
「自分の人生史上、一番幸せな瞬間を過ごさせて頂いた」と感謝の気持ちを前面に押し出しながら金メダルを受け取った羽生選手は、見る者がはっと息を呑むほどにとびきり美しい、大粒の真珠を平昌の大舞台で見事に完成させたのだと思います。
元来、真珠貝だって、異物の侵入を嫌います。生きていく上で、その異物の存在は、負担でしかないのですから。
でも、それこそ生きていれば、誰しもがその人生の中に招かれざる「異物」を混入させてしまう経験はあります。
例えば、喘息やアレルギー。様々な健康問題、家庭環境、それに経済状態。
はたまた、生まれたときには、すでに「異物」が物言わず潜んでいることだってあるかもしれません。
一つ言えることは、人生とは、そうした「異物」の正体が何であれ、まさに、それすらを核にしながらも、見事な真珠の粒を生み出すことを可能にしてくれるだけの神秘性と価値を備えたものなのだ、と。
ギフテッドであること、これもまた、ある意味、「異物」と同じく。
ギフテッドの子を持つ親として、正直、わたし自身は、「ギフテッドであること」は決して好ましいもの、望ましいものだとは思っていません。
ギフテッドの存在自体が絶対的なマイノリティーであり、この世の中がそれ以外の大多数を基準にして設計・運営されている限り、いえ、それ以上に、ギフテッドの存在についての啓蒙が社会でいっさい成されない限り、ギフテッドの人間たちは、常に生き辛さを内に抱えて生きていくことになるのでしょう。
ギフテッドの複雑な内面世界と特徴とを誰にも理解してもらえない哀しみ、周りからの誤解に次ぐ誤解、そして、揶揄さえも。
ほんとのほんとの気持ちは、嫌われたくないってすごい思うし。いろんな方に見られれば見られるほど、いろんなことを喋れば喋るほど嫌われるし、いろんなこと書かれるし。
なんかウソみたいな記事が、これからもっともっと出てくるんだろうなって思います。
《羽生結弦、2018年2月18日、金メダル獲得後、一夜明けての記者会見より》
ギフテッドはギフテッドであることで、孤独感を募らせ、心に傷を負います。
でも、それでさえも、アコヤガイになぞらえるならば、後に虹色の光沢を放つ一粒の核へと変換させることができるのかもしれません。
傷付きながらも、自分自身が葛藤し、試行錯誤していく中で、そこに何か尊いものが作り出されるかもしれない.....?
そんな希望と期待と、そして可能性に満ちた未来とを、我が子のために、また、全てのギフテッドのために信じたい。
ただ、僕がしゃべったこと、僕が作ってきた歴史。
それは何一つ変わらないし、自分の中で今回は誇りを持って、本当に誇りを持ってオリンピックの金メダリストになれたと思っているので、これからの人生、オリンピックの金メダリストとして、しっかり全うしたいと思います。
《羽生結弦、2018年2月18日、金メダル獲得後、一夜明けての記者会見より》
羽生結弦がソチと平昌とで、輝かしい金メダルを獲得することは、全くの必然だった、わたしは、今、そう思っています。
そして、彼がオリンピック王者としての肩書きを誇れるものだと言うのと同じく、彼を心から応援する者の一人として声を上げたい。
羽生結弦選手こそが誇るべき存在であり、多くの人間にとってのインスピレーションの源泉ともなってくれる、真のギフテッドスターなのだ、と。

羽生選手が内に秘めているだろう感情を正確に理解・共有できるようにと、たくさんのリサーチを元に書き進めてきたつもりです。
これからも、更に羽生選手とギフテッドを絡めたケーススタディー、続きますよ。
最後に心からのお祝いを。羽生結弦選手、オリンピック2連覇、本当におめでとうございます!


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ソチから平昌オリンピックへ☆五輪王者、羽生結弦選手の魅力の在りか
「アスリートにしては、珍しいレベルの頭の良さだな」 それが、フィギュアスケーター、羽生結弦に対する、わたしの一番最初の印象でした。 と同時に、ある種の興味を掻き立てられた ...